東京高等裁判所 昭和42年(う)1276号 判決
被告人 金海三龍 外一名
〔抄 録〕
先ず、右犯罪事実中原判示現金五百円の恐喝の点について説明すると、成程、被害者甲野松子に対し現金の提供方を求めた上同女から現金五百円を受け取つた犯人は被告人金でなく、相被告人金海であることは原判決も認定しているとおりであり、右犯行につき被告人金と相被告人金海との間で事前に相談がなされた形跡のないことも記録上明らかであるが、原判決挙示の対応証拠、特に甲野松子の検察官に対する供述調書、被告人金海の司法警察員に対する昭和四十一年十一月十七日付、検察官に対する同年十二月十三日付の各供述調書の記載を総合し、これに原審第二回公判調書中の被告人金海、同第三回公判調書中の被告人金の各供述記載を参酌して考察すれば、被告人両名は停車中の自動車内で原判示第一の如く被害者甲野松子の着衣を剥ぎ取り、同女を全裸にした上交々強姦した後、同女をその居住先のアパートに送り届けてやると称し、被告人金が右自動車後部座席の同女の隣りに坐り、被告人金海が運転席に乗り込んで右自動車を発進させようとしたが、その際被告人金海は同女が被告人両名に強姦された結果畏怖しているのに乗じ、同女から金員を喝取しようと考え、運転席から後部座席に振り向き、折柄身づくろいをしていた同女に対し「金をいくら持つているか」と尋ね、同女が「千百円位ある」と答えるや「それを出せ」と要求したこと、右甲野松子はその要求を断われば更に被告人両名から身体にいかなる危害を加えられるかもしれないと畏怖し、前掛けのポケツト内に入つている筈の五百円札二枚と百円硬貨一個を被告人金海に渡そうとして、助手席にあつた前掛けを手に取り、そのポケツトを探つたところ、意外にも五百円札一枚しか入つていなかつたので、さきに被告人両名から右自動車内に引摺り込まれたり車内で着衣を剥ぎ取られて全裸にさせられた際に前掛けのポケツトから所持金が落ちたのかと思い、「五百円しか見付からない、もつとある筈だがどこに落したのだろう」と言つたこと、すると、それを聞いた被告人両名は同女の所持金が車内に落ちているかもしれないと考え、被告人金海において室内灯を点灯した上助手席附近一帯を、被告人金において後部座席附近一帯を両名夫々手分けして捜索し、同女の落したという金員の発見に努めたが、どこにも見当らなかつたので、最後に被告人金海が同女から前示五百円札一枚のみを受け取つてこれを喝取したこと、以上の事実を認めることができる。右の情況に照らせば、被告人金が右甲野松子の落したという金員の所在を発見すべく車内の捜索に当つたのは、若し発見した場合にはこれを被告人金海に取得させる意図に出たものと認めるのほかなく、万一右自動車内に同女の所持金が落ちているとすれば、同女が車内から立ち去らない限り該金員はその所在こそ一時不明であつても客観的には同女の占有下にあるものと解すべきであるから、被告人金の前示捜索行為は、恐喝犯人が被害者から恐喝の目的物件たる金員の占有の移転を受ける行為の一過程にほかならないのであり、同被告人において恐喝の主犯である被告人金海と手分けして右金員の捜索に当つたこと前認定のとおりである以上、被告人金は被害者甲野松子からその所持金を喝取することについて被告人金海と現場において意思を連絡し、右恐喝の犯罪行為の一部を分担して実行したものと認むべく、よしんば前示捜索の結果同女の落したという所持金を発見することができず、結局被告人金海が同女から受け取つたのは前掛けのポケツト内に残つていた前示五百円札一枚のみであつたとしても、被告人金において右金員喝取の犯行につき共同正犯としての罪責を免がれ得ないものといわねばならないので、所論は採るを得ない。
次に、前記犯罪事実中原判示紙袋の恐喝の点について説明すると、原判決挙示の対応証拠、就中前掲各証拠を綜合すれば、前示自動車が被害者甲野松子の居住するアパート前路上に至つた際、同女が下車しようとすると、被告人金海は同女が原判示ワンピース等在中の紙袋を大切そうに抱えているのを見て、何かいいものが入つていると思い、前示のとおり同女の畏怖しているのに乗じこれを喝取しようと考え、原判示の如く「お前の持つている袋を置いて行け」と同女に要求し、同女がこれに応じないでいると声を荒げて「置いて行けばいいのだ」と申し向け、同時に被告人金もこれに呼応して傍らから「それが欲しいんだつてよ」と口を添え、同女をして前同様畏怖させて右紙袋を差し出さしめ、被告人金がこれを受け取つた上被告人金海の傍らの助手席に置いたことを認めることができ、右の事実に徴すれば、被告人金海が前示紙袋を置いて行くように同女に要求したのは、所論の如く専ら同女が逃走するのを防止するためであつたものとは解し難く、むしろこれを自己に領得せんとする意図に出たものであることが明らかであり、しかして、被告人金が被告人金海に右の如き領得の意図のあることを察知しつつ同被告人の犯行に加担したことは前叙のように被告人金において「それが欲しいんだつてよ」と被害者甲野松子に対し被告人金海の意のあるところを告げた上、同女から右紙袋を受け取り、これを被告人金海の傍らに置いたこと自体に照らして優にこれを肯認するに足りるから、この点に関する所論も採用できない。
以上に説明するとおり、原判決が原判示第二事実につき被告人金を恐喝の共同正犯と認定したのは正当であつて、一件記録を精査し、更に当審における事実取調の結果にかんがみても、右第二事実に関し原判決に所論のような事実誤認の廉は認められない。論旨は理由がない。
(栗田 沼尻 近藤)